家計診断Q&A

家計診断Q&A

 

住宅の購入を検討しています。
いくら程度の借入なら無理なく返済できるでしょうか?


 

井上 信一先生
(いのうえ しんいち)
プロフィール

  • マイホームの購入金額は家族の価値観と経済感覚とのバランスが大切です。
  • リスク低減の観点からローンの返済方法や住居費の捉え方にも工夫が必要です。
  • 住宅購入は同時に教育資金や老後生活等を考える機会であると留めておきましょう。
     

青木 崇さん(仮名 35歳 会社員)のご相談

家族3人(妻と子ども)暮らしの会社員です。これまで各地への勤務を繰り返してきましたが、昨年、転勤のない部署への配属となったことから、お互いの実家に近い場所でマンションを購入したいと考えています。
現在、条件に見合う物件として新築分譲から中古(築10年程度)まで数件の候補があり、幸いどの物件も家族や両親は納得してくれています。ただし価格が様々なので適正な購入価格や借入額がどれくらいなのか、果たしていま購入しても良いのか改めて気になりました。親からの贈与300万円を含め自己資金は800万円です。
また金融機関での説明を受け、購入する際には変動金利型の提携ローン(金利1.0%程度)に決めようと思っていますが、このタイプのローンを組むにあたり留意点なども伺いたいと思います。

青木 崇さん(仮名 35歳 会社員)のプロフィール

家族構成 : 本人35歳
  妻32歳
  長女5歳

(円)

年間収入 6,356,000
給与収入(夫 額面) 5,600,000
給与収入(妻 額面) 600,000
手当て等 156,000
年間支出 5,756,000
居住関連費費 1,560,000
日常生活費 食費 600,000
雑費等 240,000
公共料金 300,000
携帯通信費 180,000
こども関連費 教育費等 540,000
保険料 生命保険料 270,000
その他 衣類・レジャー等 420,000
小遣い 600,000
  不明支出 16,000
税金・社会保険等 1,030,000
収支 600,000
貯蓄額 預金等 600,000
保有資産 9,300,000
預貯金 普通預金 300,000
財形貯蓄 6,000,000
貯蓄型保険 学資保険(15歳時) 1,500,000
学資保険(18歳時) 1,500,000

物件価格3,500万円、借り入れは3,000万円程度が目安。
変動金利で借りる場合は、将来の金利上昇への備えを。

ご夫婦とも実家が近く、通勤や生活環境に支障がないのであれば、当面はお子さまの育児支援のため、そして将来的にはご両親の生活支援のためにも便利といえ、青木さんのご選択はとても理に適っています。また、長く暮したいと思える住環境でご家族も満足されるならば、他の要因や購入時期等のタイミングはさほど気にする必要はありません。ある事情に合わせて住宅プランを検討する道筋もあれば、その逆もありなのです。大切なのは何か優先させたい希望があった時、その他のライフイベント等とどのように調整し折り合いをつけるか、工夫や努力を要するならその現実的な行動プランを立てることといえます。
青木さんの場合は、既に納得できる住宅プランの候補をいくつか選ばれています。後付けにはなりますがこれらが経済的に無理のない範囲に収まっているのかを確認し、その具体的手段について検証していきたいと思います

家計の中での住居費負担可能額から、借入金や物件予算の金額を図る

マイホームを購入するに当たり、その適正額を図る目安として参考となるのが、家計における住居費負担可能額から借入可能額や物件予算を試算する考え方です。以下はその手順と青木さんのケースでの試算となります。

@年間の住居費負担可能額

世帯年収、現在・今後の家族の人数、物件種類(マンションか戸建てか)、住宅ローン種類等により異なりますが、下記がひとつの目安となります。

・世帯年収の25%〜30%以内
・現在の賃料負担額と同水準

ただし現在の賃料水準自体に、収入に対しての過大過小等の多寡があるかもしれませんので、設定においてはバランスを考慮します。

青木さんの場合は、
世帯主年収から判断:560万円×25%〜30%=140万円〜168万円
現行の賃料から判断:156万円
∴年間の住居費負担可能額を140万円〜168万円の範囲とします。


A年間の住宅ローン返済可能額

物件がマンションの場合は管理費・修繕積立金・駐車場代・固定資産税等の経常支出を上記@で算出した金額から引きます。戸建ての場合は築年数や規模にもよりますが、概ね30年後には300万くらいの修繕を想定し、年10万円(修繕積み立て)と固定資産税相当を引くと安心です。

今回は青木さんの候補物件の平均額から、経常支出を年間50万円として@から引きます。
∴年間の住宅ローン返済可能額:90万円〜118万円 


B借入可能額と物件予算

年間返済額から金利・返済期間を考慮して借入可能額を試算します。これに自己資金を加え、購入時諸費用を引くと物件予算の目安を計算できます。

購入時諸費用は、ローン保証料・団信保険料・火災保険料・登記費用・不動産取得税等のほか、仲介物件であれば別途仲介手数料がかかります。また転居に伴う費用や家財用具等の準備費用等も考慮しておくと良いでしょう。

住宅ローンの条件:金利1%、返済期間30年、元利均等返済の場合
借入可能額:2,331万円〜3,056万円・・A
購入時諸費用:多めに見積もって物件価格の10%と仮定
自己資金:800万円(うち、親からの贈与300万円)
物件予算の目安:2,846万円〜3,505万円
※計算は「(A+自己資金800万円)÷110%」

この試算方法におけるポイントは、住宅ローン以外にかかる経常支出と購入時諸費用を考慮する点です。住宅ローンの年間返済額が年収の適正割合内にあるから大丈夫とか、現在の家賃よりローンの返済額が少ないから安心と早計すると、結果として住居費総額が高くついてしまいます。住居費はローン返済額だけではないのですから。
青木さんの場合、試算条件を世帯合算ではなく世帯主収入のみとし、かつ諸費用を物件価格の10%と少し高めに試算いたしましたが、現在の候補物件には算出額の範囲内に該当する候補もいくつかあり、ひとまずは理論的な適正額内である根拠も確認できました。以降では、このうち3,450万円の物件を30年返済で3,000万円のローンで購入する場合(自己資金800万円、うち頭金に450万円充当)として様々な検証をしていきます。


変動金利型ローンの留意点とリスク低減方法

前述の試算条件は変動金利型ローンの現行水準によるものです。将来の予測はできませんが、この水準で返済期間満了時まで推移する可能性は低く、途中で金利が上昇すると返済額の増加等で、その後のライフプランが大きく崩れてしまう危惧があります。 では、変動金利型ローンはどういう仕組みなのか、また返済期間中に金利が上昇すると実際にどんな影響が考えられるのでしょうか。

変動金利型住宅ローンの仕組みを別ウィンドウで表示

金利が上昇した場合の影響を別ウィンドウで表示

参照例は少々極端な事例ではありますが、将来まったく起こり得ないとも限りません。再考の余地があれば、過去と比べても未だ低い金利で推移している長期固定金利型ローンにしておくのも一考です。

このようなリスクを伴う変動金利型ローンを利用する場合は、次のようなリスク低減策を講じる等の工夫が必要となります


@ 予め決めた損益分岐金利に達したら長期固定金利に乗り換える

一般的に多くの方が考える方法ですが、長期固定金利型ローンの金利は変動金利型より金利上昇タイミングが早く、かつ上昇幅が大きくなる可能性もあり、実際には乗り換え時期の見極めが難しいといえます。よって、予め損益分岐金利等の見極めポイントを決めておけば対処が遅くなる事態を防げます。例えば、「金利1%、30年返済、借入3,000万円」のローンを組み、当初2年間の金利が変動しなかった場合、最初から「金利2.6%」の長期固定金利型ローンを組んだ場合と同程度の返済総額に留めるためには、残期間28年間を通しての損益分岐金利は2.73%が目安となります。

  変動金利の場合 固定金利の場合
当初の適用金利 1.00% 2.60%
2年間の返済総額 2,315,784円 2,882,424円
2年後の借入残高 28,267,658円 28,644,082円
残28年間の適用金利 2.73% 2.60%
30年間の返済総額 43,250,273円 43,236,510円

※3,000万円、30年返済の場合
※固定金利は2010年11月のフラット35(団信保険料相当分込)を参考
※変動金利型は2年間金利が変動しなかった場合

損益分岐金利は低金利期間が長いほど高くなりますが、適宜検証する手間もかかります。


A 毎月或いは一定期間ごとに繰上返済(返済額軽減型)を実行する

年間で支払う住居費相当額を高めに設定し、実際のローン返済額との差額を繰上返済する方法です。繰上返済の手段としては、一般的に利息軽減効果の大きい「期間短縮型」ではなく「返済額軽減型」で実行するのがポイントです。

  変動金利の場合 固定金利の場合
当初の適用金利 1.00% 2.60%
住居費負担月額 ローン返済額 96,491円(1回目)〜
94,626円(24回目)
120,101円
毎月の繰上返済額 23,609円(1回目)〜
25,474円(24回目)
0
合計額 120,100円 120,101円
2年後(24回目返済後)の借入残高 27,695,582円 28,644,082円

※3,000万円、30年返済の場合
※固定金利は2010年11月のフラット35(団信保険料相当分込)を参考
※変動金利型は2年間金利が変動しなかった場合

この例は、固定金利水準における返済月額である約12万円と同額程度を住居費とみなし、月額当たり2万円強の繰上返済を毎月実行する場合です。実際には金利1%のローンでありながら毎月約12万円を返済していくので、元金の返済がそれだけ進みます。しかも返済額軽減型の繰上返済なので、実際のローン返済額は逓減する一方で繰上返済額は逆に逓増していきます。また、ある程度の繰上返済が進み実際のローン返済月額を低くできれば、万一金利が上昇しても返済額急増を抑える効果もあります。なお、この方法を実施できる金融機関は限られますが、一定額を一定期間ごとに安い手数料で繰上返済を行えば同程度の効果も見込めます。


B 元金均等返済方式の住宅ローンを組む

一般的な元利均等返済は返済額に占める元金と利息の割合は変わりつつも返済額自体はずっと一定額の返済方式です。これに対し元金均等返済は毎月均一の元金返済部分に上乗せして残高に応じた利息を支払う返済方式です。よって当初の返済額は高くなりますが、残高の減少に応じて利息が減っていくため返済額自体も逓減します。

  元金均等返済の場合 元利均等返済の場合
当初の適用金利 1.00% 1.00%
1回目返済月額 108,333円 96,491円
(うち元金部分) (83,333円) (71,491円)
(うち利息部分) (25,000円) (25,000円)
24回目返済月額 106,735円 96,491円
(うち元金部分) (83,333円) (72,874円)
(うち利息部分) (23,402円) (23,617円)
24回目返済後の借入残高 28,000,008円 28,267,658円

※3,000万円、30年返済の場合
※2年間金利が変動しなかった場合

この返済方法は元金の残高が早く減っていくため、万一金利が上昇しても元利均等返済の場合よりその影響が軽減できる点がポイントです。

変動金利型ローンは、返済期間中は半年に一度の金利変動による影響を受けます。自分で金利をコントロールできない代わりに、少しでもその影響を軽減するために返済方法をコントロールしておく必要があるわけです。
さて、青木さんの場合ですが、上記AとBの返済方法を組み合わせ、例えば月12万の返済(元金均等返済方法による返済額との差額を毎月繰上返済する)を検討してみたいと思います。この場合、年間経常支出50万円とあわせた住居費負担額は返済当初には194万円となり、年収に対する負担割合は34.6%、現在の家賃より38万円ほど負担が増します。この設定でも無理がないか、最後に長期的なキャッシュフローで検証してみます。


お子様の教育プランや老後生活プランも考慮した長期的シミュレーション


青木さんご夫婦にとってマイホーム取得と同じくらい優先度が高いのは、一人っ子のお子さまが中学から私立校へ進学されることです。また老後もそれほど贅沢な暮らしは望まないながらも安定した生活を送りたいと考えています。これらのライフイベントを実現させるために、金利変動で住居費負担が増してしまっても、家計がどの程度の金利上昇まで耐えられるのか、様々な金利変動プランを試みた結果が次のキャッシュフローシミュレーションです(各々の数値は任意設定)。

<将来のキャッシュフロー予測
(金利変動パターン例)を別ウィンドウで表示>

このシミュレーションでは、返済開始の1年後から金利が次第に上がり、その後4%程度で高止まりする程度であれば、なんとか最低限の貯蓄残高を堅持できる見込みであることを示しています。ちなみにこの金利上昇パターンでも元金均等返済方式と返済額軽減型の繰上返済の組み合わせにより返済満了時期を2年程度前倒しにすることも可能です。また、当初から長期固定金利型ローン(元利均等返済方式で繰上返済を実施しない場合)を利用する場合と比較しても、短中期的には厳しいものの長期的には逆に貯蓄残高に若干の余裕が見込めます。

<貯蓄残高の推移シミュレーションを別ウィンドウで表示>


まとめにかえて

今回のシミュレーションは将来の金利変動を予測したものではなく、貯蓄残高を一定に保つための金利変動推移を逆算して求めたものです。したがって、一般的なケースよりも頻繁に試算の検証を行う必要があります。できれば半年〜1年ごとに条件が変わっていないか確認をされて下さい。それこそが金利変動に連動せざるを得ない生活設計として大切な条件といえるでしょう。


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