家計診断Q&A

家計診断Q&A

親の要介護時と自分の老後に備える資金を
どうやって準備したらいいでしょうか?


 

井上 信一先生
(いのうえ しんいち)
プロフィール

  • いま保有している資産を循環的に有効活用する手段も検討してみましょう
  • 万一の際に新たな収入源を生む"保険"の機能を利用しましょう
  • 枯渇しない資産を作り上げる方法の一つは継続する収入源を確保することです

渡部 綾子さん(仮名 42歳 会社員)のご相談

都内の実家に両親が暮らしています。まだ二人とも健在ですが、将来のことを考慮し、段差も多く手広くなった住宅を売却する計画を立てています。住み替え先としては、海の近くの温暖な気候の地に、介護サービス居室に移行可能な中古シニアマンションを見つけており、両親とも趣味を活かせるものと気に入っているようです。
当の私は独身で、現在両親とは別居の賃貸マンションに暮らしています。兄弟姉妹がいないため両親の要介護時の世話と、自分自身の老後の備えに不安を抱いています。
幸い両親の自宅は最寄り駅からも徒歩圏内にあり、築年数が経っているものの、地元の不動産会社から売却の打診がたびたびあるようです。また、金融機関からも自宅を担保にした融資の話もあります。一方ではその選択肢の多さが逆に悩みの種になっています。
両親の要介護時と自分の老後に備え、どのような生活設計プランが考えられるでしょうか。

渡部 綾子さん(仮名 42歳 会社員)のプロフィール

  • 現在会社員で年収は450万円。
  • 年間収支:約30万円、現在の預貯金等500万円。
  • 賃貸マンションに暮らしており、都内の実家には別居の両親(父68歳、母65歳)が暮らす。
    兄弟姉妹はない。

資産価値の高い住宅を収入源としたり、融資の際の担保として有効活用。
生命保険金を借り入れの返済に組み入れた計画も

親の要介護に際し、時間面や金銭面等での物理的負担に加え、精神的な労苦はいまや多くの方にとり、ライフプラン上の後半期に訪れる大きな課題になりつつあります。
かたや平成12年4月にスタートした公的介護保険制度は、いろいろな問題を抱えながらも多岐にわたるサービスが僅かながら拡充される方向にあります。今後わが国においては、未曾有の超高齢社会により老老介護が本格化することに加え、単身世帯の増加が予想されます。家族や自分自身の諸々の介護問題を少しでも軽減するため、介護のプロフェッショナルに基本的な日常介護を委ねるネットワークづくりが課題になると思われます。
この時、ボトルネックとなるのが資金面ですが、循環的かつ複合的な資産活用により、この問題を解消し得る選択肢も徐々に増えつつあります。今回は、その一手法を検討してみたいと思います。


まずは、万一の事態に即して新たな収入源を生み出す保険の機能を検討

渡部さんから頂いた、ご両親様の現在の家計収支と資産の状況は以下の図のとおりです。

渡部綾子さんのご両親のプロフィール

父(68歳 無職)
母(65歳、無職)
都内に戸建の住居を所有(土地評価で約4000万円)

(単位:円)

年間収入 2,500,000
年金収入(夫婦) 2,500,000
(うち、母の年金は約70万円) 0
支出 3,000,000
食費・光熱費等※ 1,200,000
雑費等 600,000
余暇費 500,000
その他支出 300,000
税金・社会保険料等 400,000
収支 -500,000
収支赤字 -500,000
保有資産 25,000,000
定期預金等 25,000,000

※シニアマンション入居後は毎月の管理費に含まれる

保有金融資産の額からは、これまでのご両親の家計管理の堅実さが伺えます。また、その金融資産で現在の年間収支の不足額を取り崩していくと仮定した場合、現行水準がまったく変わらない前提であれば、50年程度の蓄えを有しておられる計算になります。
しかし、現在の旺盛な日常生活支出や余暇費等が、後期高齢期には次第に減っていくことを見込んだとしても、将来に重くのしかかる介護費や医療費の負担等を計算根拠に入れると、財産の耐久期間はぐっと短くなる懸念もあります。

例)財産の耐久期間   ※現在の金融資産2,500万円の場合

  1. 年間収支が▲50万円のとき→金融資産は約50年分の収支赤字の補てんに対応可能。
  2. バリアフリーリフォームに300万円使い、さらに介護費用に年60万円掛かる場合
    →約20年分の赤字補てんしかできない ※(2,500万円−300万円)÷110万円。
 

個々の生活環境による違いこそあれ、ある時期に重い病を患い、その後程なくして亡くなるケースより、軽度な状態から次第に重度なものへと進展していく要介護状態の長期化に備え、相応の準備を整えておくことが、家計においては深刻なリスク対策として重要です。

その打ち手として、昨今注目に値するのがバリエーション豊富になった民間の介護保険商品でしょう。このタイプの商品は、これまでは保険金支払事由に該当する要介護状態の判断が厳しく、折角保険に入っているのに給付を受けられない、しかも保険料が相対的に高過ぎるのが欠点でした。保険会社にしてみれば大きなリスクを抱える可能性が高いゆえ、手探りの状態であったのも否定できません。
しかし最近では、徐々にではありますが検討に値する保険も増えています。そのひとつが、下記図の仕組みを有する某大手保険会社の商品です。この保険は、終身保障タイプですので、約款の規定に該当する要介護状態が続く限り一生涯所定の介護年金を受け取ることができます。しかも、給付を受けるための条件は公的介護保険制度と連動し、「要介護2」以上の認定を受ければ保障対象になるなど、給付要件のハードルが下がっています。
さらに、もうひとつの懸念材料でもあった「保険料の掛け捨て感」を払拭する仕組みであることも注目できます。すなわち、要介護状態が長引けば保険に加入する「効果」はあるものの、早期に亡くなってしまう場合や、事情により解約を余儀なくされた場合であっても、負担した保険料相当額は回収でき得る内容になっています(早期死亡の場合は介護年金の残存期間に相応する死亡保険金が支払われるほか、保険料一時払い型であれば、契約から概ね8〜9年後に解約しても返戻率100%以上、つまり払込保険料相当額以上の解約返戻金を受け取ることができます)。

<一時払終身介護保障保険の仕組みの例を別ウィンドウで表示>

高齢期の資産管理として大切なのは、「いかに効率的に殖やすか」よりも、大きな負担を伴う可能性のある事態に対し、その備えとして「いかに予定外の大きな出費を軽減し得るか」に軸足が移ります。つまり、保守的な資産運用・管理手段に移行することが求められるわけです。多額の資金を要する事態が生じた場合に、その要因となる事態を支払事由とし、その状態が続く限り収入を得る仕組みを持つのは、多くの金融商品の中でも唯一「保険商品」の持つ特徴です。

今回は、当該商品の「保険料一時払い型(5年ごと利差配当金付)」をご提案いたします(幸い、この商品は契約時の予定利率よりも保険会社の運用環境が好転した場合に、契約者配当金の形でその恩恵を受ける可能性を残す有配当型を選べました)。今後、短期的に急激な物価の急騰と、これに伴う金利上昇に見舞われた場合、保険商品は相対的に不利な選択になってしまう危惧は否めません。また、保険料も割高ではあります。しかし、前述のとおり、効率的・短期的な運用よりも甚大な費用負担に対抗し得る対策を講じておくことが高齢期の資産管理には求められます。有り余る資産を求めるより、万一の場合でも足りなくなることを防ぐことが重要であるからです。
また同時に、同じような「保険料一時払い型」の終身保険にも加入しておくことをご提案いたします。こちらの商品は、終身介護保険より解約返戻金の貯まるスピードが早いので、昨今では低金利の定期預金等の代わりに利用する方も多いのですが、今回は後述する「自宅の活用」と併用し、長期的かつ総合的な目的のために検討したいと思います。

ここまでで、現在ご両親の保有される金融資産2,500万円のうち、2つの一時払い型保険の保険料として1,900万円程度を要すことになります。いずれも一定期間を経過すれば、払込保険料を超える解約返戻金を見込める回避手段を持ち得ますが、今回は、子である渡部さんの老後資金対策も考慮し、長期契約を念頭に置いたものと致します。


両親の自宅を賃貸に回して有効活用しつつ、長期的な収入源とする

ご両親がお住まいの住宅は、幸いにもいま売却すると相当の金額を得ることができるようです。しかし残念ながら多額の売却金を得ても、昨今では親世代と子世代の双方にまたがる有効な資産管理手段の選択肢が豊富にある訳ではありません。

これまで住み慣れた住環境で、できるだけ暮らし続けることを望む方がいる一方で、生活の価値観や身体の変化に応じて住環境を変えていくことを望まれる方も最近では増えています。前者の場合には、高齢時の暮らしにあわせ、万一の事故が生じる前に暮らしやすいよう住宅をバリアフリー化するなどの検討が必要になります。当然、それには相応の費用もかかります。
渡部さんのご両親のご希望は後者のタイプのようですが、さらにここでも、自宅を売却するか一定の資産価値を保有したまま賃貸として収入を得るかの選択肢があります。

今後、我が国の人口は確実に減少し、住居の余剰が予想されるため、すべてのケースで自宅を賃貸化することが有利であるとは限りません。しかし一定の要件を満たす地域と、そうでない場合との2極化は容易に想像できるところであり、その資産価値によって現在の自宅をどのように扱うのがよいのかは異なるのだと思われます。

人生の終末期は自宅で迎えることを望みながらも、実際には医療機関で迎える方が多いのが現実ですが、今後はターミナルケアを思い出の多い自宅で迎えたいと願う方も多くなると思われます。ひとたび売ってしまってはもう取り返すことが困難です。自宅を保有したまま生活の場を移していくあり方も、今後は多くなるのかもしれません。その際には、中途半端にリフォームを施して資産価値を下げるより(一般的には、バリアフリーリフォームを施した住宅は、中古市場や賃貸市場において、資産価値が下がる傾向にあるようです)、早期から人に貸すことを想定した改修を行うのが合理的な場合もあります。

よって、今回はご両親の自宅については譲渡に伴う多額の所得税が想定される売却ではなく、人に貸すための最低限の改修を施し賃貸化することを検討したいと思います。賃貸契約としては、ご両親の双方が亡くなった場合の渡部さんの相続税額負担軽減のためにも、「借家」とするのが多少は有利です。ゆくゆくはこの自宅をご両親のターミナルケアの地として再利用できる可能性を残せるよう「定期借家」方式が望ましいと思われます。以下はそのプランのアウトラインです。

ご提案プランの骨子

  • 自宅を賃貸に回すための最低限の改修工事を施す。
  • 自宅を保有し続けることにより固定資産税や改修等の維持費はかかるが、継続的な賃料といった収入源を生むことができ、収支改善効果を見込める場合がある。
  • 両親とも死亡した後の相続税としては、両親居住の居住地(子が別居の場合)より、貸家建付地が、相続税上軽減できる可能性がある。
  • 万一、将来的なターミナルケアにも対応でき得るよう、賃貸契約は「定期借家」方式とする(賃料は安くなるが、原則として借家契約期間を定めて賃貸に出す方法)。

今回のプランは、さらに自宅の改修工事やご両親の転居先の購入費等を捻出するため、自宅を担保とした借入によりその資金を賄うことを検討します。この方式は一部地方行政や金融機関で取り扱う「リバースモーゲージ」に近い形態であり、担保となる土地等に対して資金を借り入れ、ゆくゆくはその債権者である金融機関等に土地を手渡すことで融資金額の清算を行う仕組みです。利点としては、手元にある金融資産に手を付けずに済むため、万一の時の流動資金を確保したまま、当座の必要資金を融資により作り出すことができます。反面、融資の担保となった土地等を、債務者(契約者)やその配偶者の死亡時に返済に充てるため子の世代に遺すことができなくなります。

渡部さんへは、お父様の亡くなられた際に、当初融資金額を返済する原資として先述の終身保険をあわせてご提案いたします。表現は適切ではないかもしれませんが、このスキームは、ご両親の守ってきた自宅資産を担保に、いったんは借金により親世代の生活に必要な有効活用のための資金に充てますが、その父親の生命を以て借入金の清算に充当できる生命保険契約を結ぶことで、次代に資産活用の選択肢を継承できるプランとなります。

ご提案のスキーム

  • 現有する不動産を担保に融資を受けて、両親の転居資金と賃貸用の改修費用を賄う。
  • 別途、融資の契約者である父親の死亡時に受け取る死亡保険金で借入金額の返済を行い、再び自宅を家族所有に戻す。
  • ただし、一般的に、融資金額は売却見込金額より低く見積もられるため、万一、追加融資を受ける可能性が高い場合には上述の死亡保険金では不足してしまう懸念がある。その場合は、再び不動産を手に入れることが困難になるので、検討においては充分に考慮する必要がある。

ご提案プランの概要
自宅を有効活用して資金調達し、その金額を新しい暮らしのための準備金に充当する。また、将来の介護費用の上乗せ分や、ターミナルケア期の費用、お母様が1人になった後のケアも考慮し、生命保険を活用する。

金融資産
預金と生命保険に配分

融資提携銀行の預金 :1,000万円
一時払い生命保険料 :1,900万円
終身保険と介護保険に各々1,000万円
の保険金。ともに一時払い型の利差配当付

都内の自宅
融資を受けた資金で改修して賃貸化

自宅と預金口座を担保に1,000万円の融資を受ける(最大で自宅評価の4,000万円までは可、利息返済は同額を預金するので不要とのこと)。融資元本の返済は終身保険の保険金で充当可能。自宅は、耐震改修後10年更新の定期借家にて賃貸(周辺賃料相場は20万円/月との調査済み)

年間収支
賃料収入で管理費を吸収

収入:賃料168万円(諸経費控除後で14万円)が加わり、計418万円。
支出:食費・光熱費控除後の支出180万円に施設管理費200万円が加わり計380万円。差額は予備積立と余暇追加に充当

その他収支
介護時への備えに保険を活用

預金以外の金融資産は融資と合わせ保険、自宅改修等や転居費、マンション購入に充てる。介護時には介護保険から一時金100万円と終身年金100万円が支払われるが、重度介護になり、介護居室に移ると年間150万円不足の見込み。これを追加融資か終身保険の一部解約で補う。

以上のプランを検討し、ご両親の貯蓄残高の推移をシミュレーションしたものが以下の図となります。

<将来のキャッシュフロー予測を別ウィンドウで表示>

<貯蓄残高の推移を別ウィンドウで表示>

シミュレーションでは重度介護時の費用をやや多めに見積もってはいますが、プランではお父様が概ね107歳を超えるまでは資産を枯らすことなく保持できる見込みとなりそうです。また、ご両親や渡部さんが望む限り、地の利があるニーズの高い資産を永続的な賃料収入源として活用することも可能でしょう。

このように、いつまでなのか、あるいはどのくらいの資金が必要なのか、見通しを立て難いのが老後資金プランでありますが、現有資産や保険機能を有効活用し、かつ公的年金等以外の定期収入を確保することにより不透明な資金需要にも対応することも可能となります。プランニングの有効性としては、途中で方向転換する柔軟性も充分に有していると思われます。選択肢の一つとしてご検討いただけるのではないでしょうか。


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