家計診断Q&A

家計診断Q&A

85歳、自宅を売却して住み替えをします。
近い将来の相続まで考えて、どのくらいの物件が妥当でしょうか。


 

鈴木 暁子先生
(すずき あきこ)
プロフィール
物件価格は相続を見据えて検討する必要があります
三女様の老後資金を中心に、まず遺すべき現金を見積もりましょう
最大のリスクはご本人が介護状態になり、施設入居をした時その時の対応はご家族でコンセンサスをとっておくと良いでしょう
相続については遺言書を遺しましょう

田辺 節子さん(仮名 85歳 無職)のご相談

自宅を売却した資金でマンションを購入予定です。娘が3人いますが、同居している三女が未婚のため、私が亡くなった後も生活が成り立つよう資産を遺しておきたいと思います。どれくらいまでの金額の物件が購入可能でしょうか。いま、諸経費込みで5,000万円程度の物件を考えています。

田辺 節子さん(仮名 85歳 無職)のプロフィール

家族構成 : 長女 62歳 主婦・パート (持家あり)
  次女 58歳 専業主婦(持家あり)
  三女 54歳 無職(同居)
住居 : 自宅を売却し、買い替え予定(現在は仮住まい中)
売却後の手取り額:価格は1億2千500万円
その他 : ・検討中の物件は諸経費込で約5,000万円
  ・三女はこれまで家族に対する貢献度が多大だったため、長女、次女も将来の相続時に三女に手厚くすることには納得している

想定できるリスクを考えた現金資産を持ちつつ、
相続時にトラブルにならないバランス考えて物件の価格を決めましょう

田辺さん、こんにちは。ご自宅の売却をし、仮住まいへの転居を済ませたばかりとのこと。これから新居探しと再度の転居が予定されますが、ご高齢ですのでくれぐれもお身体には気をつけてお過ごしください。

1.物件の予算以前に、相続をどのように考えているかが重要です

ご相談内容としては、買い替える物件候補として諸経費込 約5,000万円で問題ないかということと、三女様の老後資金の確保ですね。

また、将来の相続については
(1)買い替える物件を最終的には三女様の住まいにする
(2)現金を三人のお子様に配分する
(3)ただし三女様には手厚く配分したい
とご希望です。

田辺さんの思いについては、親子・姉妹間で納得できているとのことですので、その方針で進められて良いと思いますが、物件価格を先に決めるのは順序が逆です。

田辺さんとしては、図のようなイメージをお持ちかと思います。

しかし現金の分割について、三女様の老後資金を確保するということは、相続時にまず先取りするということです。その上さらにマンション予算も先取りしてしまうと、長女様、次女様の相続分はいわゆる「残った分」ということになってしまいます。

相続割合が等分であれば、「残った分を三人で分けて」といっても問題はありませんが、手厚さを加える場合、(お姉様たちは差をつけることを納得してくださってはいますが、)想定以上の差になってしまうことがないよう配慮することが争族回避につながります。

したがって物件価格を決めるにあたっては、長女様、次女様へどれくらい遺せるようにしておきたいかを決めるほうが先。三女様の老後資金、長女様、次女様への現金をよけた上で、残った金額から物件予算を考えるべきでしょう。

 

2.田辺さんの存命中と亡くなった後では三女様の家計は激変します。
      住み替えも選択肢として残せるようにプランしましょう。

お話しを伺った中で心配になったのは、三女様の経済状況です。未婚かつ無職ということで、将来の収入はご自身の年金しかないわけですが、未納期間があり、現状で25年の納付がないため、まだ老齢年金の受給資格がありません。今後も保険料納付を継続すれば受給資格を得られますので、忘れず納付してください。

また就業できない理由が、過去の膝のけがの悪化で、歩行が通勤や就業に耐えないということですので、三女様の給与収入は今後も見込めないものとし、必要な老後資金を試算してみましょう。

<概算の条件>
・田辺家の収入 :265万円/年(田辺さんの老齢年金および遺族年金)
・田辺家の支出 :204万円/年
・三女様の貯蓄額 :1,000万円
・三女様の年金見込み額 : 日本年金機構簡易試算システムによる試算
国民年金加入期間 : 113月(納付済み期間)
71月(今後納付予定期間)
厚生年金加入期間 : 73月(平成15年3月までの納付済み期間)
60月(平成15年4月以降の納付済み期間)
  60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳〜
年額 16万円 16万円 16万円 16万円 16万円 69万円

・田辺さんが亡くなった後の三女様の生活費:14万円(三女様見積もり)

現状の生活は田辺さんの年金のみで十分まかなえており、年額約60万円貯蓄できています。 大変堅実な家計ですね。しかし、田辺さんが亡くなられると265万円の年収が無くなります。三女様の年金だけでは大きく不足しますので、この分を確保する必要があります。

85歳の方の平均余命は8.07年(厚生労働省 平成23年度簡易生命表より)ですので、田辺さんが93歳まで生きられたとし、その後三女様お一人暮らしの期間が90歳までと仮定します。

<三女様の必要老後資金表を別ウィンドウで表示>

ざっと見積もっただけでも約3,700万円。ただしこれは生活するだけの費用で、家電買い替えや一時的支出などを考慮すると約4,000万円は老後資金として必要でしょう。ちなみに別途医療費や介護費用などもありますが、これは既に貯蓄されている1,000万円から捻出すれば良いでしょう。

また一人暮らしですので、将来日々の生活に不安が生じた場合、高齢者住宅や施設に入居する選択肢も残しておくと安心です。この場合は、マンションを売却して入居一時金に充て、月額費用は試算による毎月支出額を目安に15万円程度とすれば住み替えも可能です。

 

3.物件価格は当初予定より低くなりそうです。最大のリスクはご本人の介護施設入居時。

手取り額1億2千500万円のうち、4,000万円を三女様に配分するとし、三女様は別にマンションも相続します。減価償却分があるとはいえ、仮に相続時点で購入価格の半分になっていたとしても、5千万円以上を相続することを踏まえた上で、長女様、次女様に相応の現金を遺す必要がありそうです。

個人的には2,000万円程度が妥当なところかと思いますが、これは田辺さんのお考えですので、十分検討してご判断ください。

仮に2,000万円ずつとすると、遺すべき現金の目安は8,000万円。結果的に5,000万円の物件は難しく、諸経費込で4,000万円程度となりそうです。

ただしこれは現在の生活のように貯蓄に手を付けずに済む場合であり、今後もし田辺さんの医療費や介護費用が必要になってくると、その分現金は目減りします。

最も大きなリスクは田辺さんが介護状態になり、(三女様も足の持病をお持ちですので)自宅介護が難しくなった場合です。介護施設に入居することになると、母娘が自宅と施設という二重生活になるため、貯蓄の減り方が加速します。

そのような場合でも相続時に三女様の老後資金を先取りすると、長女様、次女様の相続割合とさらに大きな格差が生じます。

このようなケースでは財産と介護負担を切り離して考えにくくなります(三女様が財産の多くを相続するなら、介護負担も大きくなる可能性が高い)。したがって85歳でお元気な田辺さんではありますが、このケースの対応はあらかじめお子様たちとコンセンサスをとっておくことをお勧めします。

 

3.おわりに

老後資金が不足する場合、通常であればパートでも良いので給与収入を得ることをお勧めしていますが、今回は難しいということ。したがって、どうしても資産の中から遺しておかなければならない金額が大きくならざるを得ません。

また、三姉妹の中でも明らかに三女様が経済的弱者ですので、手厚くしておきたいお気持ちは十分お察しいたします。ただし親子、姉妹間で納得しているとはいえ、やはり今回のように相続割合に差が生じる場合は、遺言書を遺しておくことをお勧めします。

田辺さんがご存命中は、貯蓄ができるほど十分家計が成り立ちますので、田辺さんが長生きされるのは家計にとっては非常にプラスなことなのです。これからもどうぞお元気で長生きされることを願っております。


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