家計診断Q&A

家計診断Q&A

今年60歳で定年を迎えます。
年金制度等も考え、定年後どのように働くのが有利でしょうか?


 

井上 信一先生
(いのうえ しんいち)
プロフィール
働くことで家計の収入面では損をすることはありません
在職老齢年金や長期加入の特例などの厚生年金保険の各種制度に留意しましょう
雇用保険制度も踏まえて合理的な就業形態を目指しましょう

荒巻 素輔さん(仮名 59歳 会社員)のご相談

今年、60歳で定年退職を迎えます。勤め先には定年後も継続雇用制度があり、65歳まで勤続可能とは言われています。まだまだ元気ですし、できればこのまま働き続けたいとの意思はありますが、収入がかなり落ちる上に働くと受け取る年金が減らされる可能性があると聞き、少々悩んでいます。自分自身で決めるべきことではありますが、年金の受取等で有利な方法があれば、それを参考に検討したいと思っております。私の場合、何かポイントはありますでしょうか。

荒巻 素輔さん(仮名 59歳 会社員)のプロフィール

昭和28年10月生まれ  
厚生年金保険の被保険者期間 : 499月(18歳から60歳の定年の末月までの場合)
年金見込額 : 111万5,600円(60歳まで働いた場合。ねんきん定期便による)
60歳以後の給与見込額 : 月額25万円(継続雇用の場合、賞与なし)
ご家族 : 妻(54歳、厚生年金保険の被保険者期間120月、現在は専業主婦)
ほか長男(29歳)、長女(25歳)はともに結婚して独立

働くことで総収入が減ることはありません
制度を合理的に活かす就業形態もあります

荒巻様、まずは長い期間に渡りお疲れ様です。今後は、奥様とのセカンドライフが楽しみですね。充実した暮らしとなりますこと、心からお祈り申し上げます。

さて、ご相談にもありますように、これから先の働き方におかれましては、まずはご家族の希望、次に健康状態、最後に今後の家計収支や蓄財の状況に応じて、望ましい形も変わってきます。また、働かれることで単純に収入が増えますし、精神面での充実感を得ることも可能でしょう。ですが、荒巻様の場合はいくつか年金制度等で留意点がございますので、今回はこれに絞って述べさせて頂きます。いずれも頂いた情報の限りでの、現行制度下での言及ではございますが、ご参考になさってください。
なお、60歳でリタイヤされる場合とこのまま働き続ける場合、そしてその場合の働き方や働く期間によって重視するポイントは変わってまいります。年金等の制度は複雑ですが極力ご理解しやすいように、荒巻様のケースにて、以下ご説明を致します。

60歳以降は働かない場合

現行制度では原則、老齢年金は、厚生年金保険制度からの老齢厚生年金と国民年金制度からの老齢基礎年金65歳から受け取れます。ですが、荒巻様のお生まれ(男性の場合で昭和28年4月2日〜昭和30年4月1日生まれ)ですと61歳から老齢厚生年金と同額の報酬比例年金が受給開始となります。年金額は、ねんきん定期便に記載されている金額と概ね変わりないと思っておかれて良いでしょう。
なお、ねんきん定期便には記載されていませんが、荒巻様の場合は満額受給の要件を満たす65歳時に、年金制度上の家族手当ともいえる加給年金が加算されます。加給年金は、奥さまが65歳に達して自身の老齢基礎年金が開始するまでですので、概ね6年間に渡って受け取ることができます。
また、61歳になるまでの1年間は無収入状態となりますが、仮に求職の意思を持たれて求職活動をされれば、雇用保険制度から求職者給付の基本手当(失業給付)を最大で150日間受け取る権利があります。ご関心があれば、お住まいを管轄するハローワークにご相談されて下さい。

 

60歳以降も働く場合

ご相談のとおり、60歳以後も働かれる場合は、年金額と給与収入の合計に応じて年金の一部または全部が支給停止となる在職老齢年金の適用を受ける可能性があります。ただし、60歳時よりも著しく低い賃金で働かれる月には雇用保険制度からの高年齢雇用継続給付金が見込めるほか、荒巻様の場合は厚生年金保険制度の被保険者として継続加入される場合の長期加入の特例も期待できますので、これらの制度について知っておかれると良いと思われます。

まず、在職老齢年金とは、厚生年金保険制度の被保険者としての収入を得ながら同制度の年金を受ける間の調整措置です。具体的に、厚生年金保険制度から受け取る年金月額(加給年金を除く)と総報酬月額相当額を加えた月額が28万円を超えた月は、超過分の2分の1に相当する額等が年金から差し引かれる仕組みです。総報酬月額相当額とは、60歳以後の標準報酬月額に当該月以前1年間の標準賞与額の12分の1を加算した額を指します。ざっとイメージするなら、過去1年間の賞与の月按分額に60歳以後の各月の給与を加えた金額(過去1年間の年収の12分の1)とみておけばよいでしょう。
荒巻様の場合、61歳までは年金が始まらないので関係ありませんが、61歳以後は年金月額約9万3,000円に給与月額25万円を加えますと、ボーダーラインの28万円に対して約6万3,000円オーバーし、この半額の3万1,500円相当額が年金月額から減額されることになります(実際には給与月額でなく標準報酬月額で算定し、かつ過去1年間の標準賞与額の実績は毎月変動するため、この通りではありません)。ただし、この間も厚生年金保険制度に加入し続けますので、再退職後には加算期間に応じて年金額も増額します。目先の年金の減額は嫌なものですが、平均余命年齢までご生存されて年金を受けられますと、トータルでの増減は概ねトントンになりますのでご安心ください。
また、60歳到達時の賃金に対し、60歳以後の賃金が著しく下落して働く間、当該月の賃金の所定割合を高年齢雇用継続給付金として受け取ることができます。荒巻様の場合、60歳以後の給与月額を25万円としますと、60歳到達時の61%未満に該当し、給与月額の15%の3万7,500円相当額を受け取れます(これも厳密には各月の賃金額に応じて異なります)。しかし、高年齢雇用継続給付金を受けられますと、厚生年金保険制度の老齢年金と調整が行われ、標準報酬月額の一定割合が年金から引かれます。
ざっくりとした金額ですが、以下は仮に65歳まで働く場合のイメージ図です。

 

制度を合理的に活用して60歳以降も働く場合

さらに、厚生年金保険制度に44年加入すると、被保険者でなくなった翌月から、本来は貰えない厚生年金保険制度の定額部分の年金を65歳まで受け取ることができるようになります(これを長期加入の特例といいます)。また、報酬比例の年金に定額部分の年金が加わることで満額受給の要件を満たしますので、加給年金もこの年齢から前倒しで開始となります。荒巻様の場合ですと63歳まで引き続き働かれることで達成いたしますので、是非ご検討ください。
ただし、長期加入の特例に該当するためには厚生年金保険制度の被保険者でなくなることが条件であることにご注意ください。つまり63歳まで働いて44年加入を満たした後は、お勤めを辞めるか、あるいは厚生年金保険の被保険者に該当しない働き方に切り替える必要があります。ご勤務先の事情により、その調整は中々難しいかもしれませんが、もしそれが可能になれば、63歳以後も働いて一定の収入を得ながら在職老齢年金には該当しないので年金の減額はされず、かつ雇用保険制度の被保険者要件だけを満たしていれば高年齢雇用継続給付金は引き続き最長65歳までの働く間受け取ることができます
以下は、63歳まで厚生年金保険の被保険者として働き、その後は就労日数を減らす等で厚生年金保険制度には加入せず(雇用保険制度には加入)働く場合のイメージ図です(給与の減少額は参考値となります)。

いかがでしょう?実際には微妙な金額の差が生じますが、このケースですと受給権利を合理的に活用することが可能になると思われます。
なお、退職後に雇用保険制度の求職者給付の基本手当(失業給付)を受けますと、その間老齢年金は支給停止となってしまいますが、同様の趣旨として65歳以後に求職活動する場合に受け取る高年齢求職者給付金は老齢年金との調整がありません。もし、65歳以前に再退職をされる場合には、老齢年金と失業給付とでどちらの手取額が多いのかを比較する必要がありますが、65歳以後の求職であれば年金等は一切減額されず、さらに雇用保険制度からの給付金の加算が見込めます。

 

老齢年金の繰り上げ支給・繰下げ支給の注意点

最後に、こちらもよくご相談を受ける、年金の繰上げと繰下げ支給についての注意点も挙げておきます。

 

※繰上げ支給の注意点

年金の受取開始年齢を最大で60歳まで早めることのできる制度です。ただし早くもらう分、繰上げ月数に応じて0.5%の割合で年金が減額し、一生に渡って減額された年金を受け取ることになります。ちなみに最長5年間繰り上げると減額割合は30%(0.5%×60月)となります。以下は荒巻様の場合に考えられる注意点です。

  • 老齢基礎年金を60歳支給開始まで繰上げる場合、本来61歳から受け取る報酬比例年金も同時に繰上げねばなりません。この場合、老齢基礎年金は30%の減額、報酬比例年金は6%の減額となります。
  • 報酬比例年金の繰上げに伴い、60歳から在職老齢年金として減額の対象となる可能性があります。
  • 老齢基礎年金の繰上げ年齢を61歳以後にする場合は、報酬比例年金の受取時期や受取額は変わりません。また、老齢基礎年金は在職老齢年金の計算とは無関係ですので、繰上げ月数に応じて減額された年金をそのまま受け取ることができます。

※繰下げ支給の注意点

年金の支給開始年齢を最大で70歳まで遅らすことのできる制度です。遅くもらう分、繰下げ月数に応じて0.7%の割合で年金が増額します。最長5年間繰り下げると増額割合は42%(0.7%×60月)となります。繰下げ支給を実際に検討される方は少ないのですが、やはり荒巻さんの場合では、以下の点にご注意ください。

  • 繰上げの場合と異なり繰下げは老齢基礎年金と老齢厚生年金の各々単独で行えます。
  • 65歳以前に受け取る報酬比例年金や定額部分の年金は繰下げの対象にはなりません。
  • 老齢厚生年金を繰下げると加給年金の支給開始年齢も遅れます。加給年金は繰下げによる増額は行われないだけでなく、奥さまが65歳になると終了しますので実質的には受給額を減らすことになります。
  • 65歳以後も厚生年金保険制度の被保険者として働いて在職老齢年金の適用を受ける場合、減額される老齢厚生年金部分は繰下げによる増額の計算の対象にはなりません。

年金の繰上げ・繰下げは、本来の受取方法を変更するわけですが、損得は一概には決められません。せっかく繰上げても本来の年金より減額されていますので、一定年齢(繰上げ月数に関わらず、繰上げ開始年齢から16年8ヵ月)後になると結果的には損をします。逆に繰下げは本来の年金より増額されますが、繰下げの月数に関わらず繰下げ開始年齢から11年10ヵ月経たないと損をします。いずれにせよ、損得の判断は亡くなられた時にしか判明できない訳ですので、上記の注意点も加え、余程の必要性がない限りは通常通りに受け取られるのが無難と言えそうです。

 

最後に

年金等の制度は複雑ですね。今回は概要のご説明に留めておりますので、詳細は日本年金機構のHP等をご参照下さい。 また、合わせまして会社員の方の場合は退職金の受取方法も検討されると良いと思われます。お勤め先によっては退職金を一括ではなく、一部または全部を年金形式での受け取りに変更できたり、受取開始時期を据え置くことができる場合もあります。退職金の一括受取は税金面で有利ですが、その一部でも年金受取に変更すると、生活上のお金の管理には便利ですし、総じて税引後の手取額ベースも多くなります。さらに、住宅ローンの完済等の用途がなければ、一定期間受取時期を据え置くことで利息等が加算されることもあります。この機にお勤め先の退職金制度もよくお調べください。

さて、最初にも述べましたが、年金や退職金をどのように受け取るか、またはいつまでどのように働かれるかは、ご本人様とご家族のライフプランによって理想的な形は異なります。今後の暮らしのビジョンをまずご家族と話し合われ、そして家計の状況等も考慮してプランをお立てください。

 

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