家計診断Q&A

家計診断Q&A

変動金利型で35年の住宅ローンを組みましたが
80歳までの長期返済は大丈夫でしょうか?


 

井上 信一先生
(いのうえ しんいち)
プロフィール
家計の金利上昇耐久力をイメージしておきましょう
ポイントは最低世帯年収の確保と、いま一歩の収支黒字改善です
繰り上げ返済(返済額軽減型)を実行しましょう

本田 玲二さん(仮名 46歳 会社員)のご相談

妻と長女の3人家族です。夫婦共働きでしたが妻が転職を検討し始めたのを機に、今年初めにマンションを購入しました。金利上昇リスクや仕組みについての説明は充分に受けていましたが、月々の返済負担の少ない変動金利型で住宅ローンを組むことにしました。
今のところ返済額にゆとりはありますが、やはり今後の金利上昇の可能性が気になります。今から準備をしておくのがよいことはありますでしょうか?

本田 玲二さん(仮名 46歳 会社員)のプロフィール

家族構成 : 夫(46歳、会社員)、妻(44歳、会社員)、長女(10歳)
手取り年収 : 夫385万円 妻355万円 ※源泉徴収票より推計
妻は2014年中に転職を検討 退職金は見込めるが金額は未定
年間の貯蓄額 : 約120万円(毎月6万円、賞与時計48万円)
年間の支出額 : 約620万円 ※「手取り年収−年間貯蓄額」にて推計
住宅ローン概況 : 借入金3,800万円 金利0.8% 全額夫名義
返済期間35年(夫80歳まで)
返済月額103,763円(年額124万5,156円)
現在の金融資産 : 850万円

金利変動に対する最も有効な対策は自動的繰り上げ返済。
支出の削減もしながら準備しましょう。

 

簡易キャッシュフロー表からわかること

本田様は、変動金利型住宅ローンの仕組み等についてご理解頂いているとのことですが、過去に同様のご相談がありましたので、その仕組みや留意点等につきましては、当コーナーの(http://fp-kakei.com/12/11_2.html)を予めご参照頂きたいと思います。

さて、現在、全期間固定金利型の住宅ローン金利は概ね1.8%〜2%程度、これに対して変動金利型は相変わらず1%を下回っています。この金利差を仮に1%〜1.5%とすると、本田様のように当初の借入金が3,800万円(返済期間35年)なら、返済月額でおよそ18,000円〜28,000円、年額で約22万円〜34万円の差となります。将来の金利動向は予測できませんので返済総額での差額を単純計算すべきではありませんが、逆にいつ金利が上がるのかがわからない状況では返済当初のこの優位性を全く無視することもできません。変動金利型ローンの留意点をご存知の上で、あえて選ばれる気持ちはとてもよくわかります。

ですが、将来のローン返済予定を計画的に見積もれず、しかも金利変動自体に対しては自身でコントロールできない中、用意できる打ち手は限られてきます。そのためにも、まずはキャッシュフロー表をつくり、家計管理を可変的なものとして捉えることが大切です。

以下は、ひとまず奥さまの収入を現状維持と仮定した場合の年間収支と貯蓄残高の推移です。支出細目は把握できませんでしたので簡易試算ですが、お子様の進学に応じて一般的な教育費を加算するのに加え、お子様の養育費分を一定割合で増加させています。
このケースでは試算上に見込んでいない退職金を含めれば、本田様の将来のキャッシュフロー上では特に深刻な問題はないと考えられます。

試算(1)のキャッシュフロー推移 ※お子様の進学は高校〜大学は私立、養育費総額は進学に1割増、退職金は考慮しない場合

しかし、仮に3年後に金利が跳ね上がり3%で高止まるだけで将来の状況は大きく一変し、およそ70歳には貯蓄が枯渇することが予想されます【試算(2)】。こうなると見込まれる最大限の退職金を試算に入れても、本田様が80歳を迎える頃には安心できる暮らしが危ぶまれる可能性もあります。
さらにこれに留まらず、その2年後(今から5年後)に金利が5%に達する【試算(3)】ことになると、毎月の返済月額は20年経過以後から約24.3万円にまで跳ね上がります。こうなると、もはや老後は年金だけでの生活が立ち行かなくなり、長期的にこれを解消するためには、今から家計収支を2割程度改善しておく必要が生じます。具体的には、来年から家計支出を月額7万円程度削減するか、奥さまの転職後の収入を今の3割増、世帯年収で860万円程度を確保する必要性に迫られることになります。

試算(2)〜試算(3)の貯蓄残高の推移

さすがにここまでくると、家計の抜本的な改善は喫緊の課題でしょう。つまり、一つの目安として本田様の場合、ローンの適用金利が3%まで上昇すると家計に黄色信号が点滅し、5%で完全な赤信号の点灯状態となりますので、それを事前に察知した準備が必要になるといえます。

 

繰り上げ返済(返済額軽減型)の効用とは?

将来の金利変動は全く予測できないため、そのシミュレーションをいくら複数行おうと、不本意ながらあまり意味はありません。例えば、上記よりもっと早い段階で金利上昇が現実のものになれば家計はより困窮します。さらに金利上昇が進む場合も同様です。逆に、ある時期、金利上昇が進んだとしても、返済期間を通して金利下落局面の期間が長くなれば、いくぶんゆとりが生じます。

変動金利型の住宅ローンを組むということは、このように絶えず市場金利の動向に敏感に対応すべき宿命を負うと覚悟をして頂くのが無難なのです。
言うまでもありませんが、低金利の借換えキャンペーンを狙ったローンの借換えや、ある時期に固定金利型ローンに移る対策は、そのタイミングを見測ることが非常に困難と言わざるを得ません。

ですが、現状で何も対処すべき策がないわけではありません。そのために今から繰り上げ返済「返済額軽減型」を実行して頂くのが最も有効な対策となります。
本田様がお借入れされている金融機関を調べましたところ、当該金融機関では毎月1万円から手数料なしで自動的に繰り上げ返済を設定することが可能なようですね。それならば、この有効な対策を行なわない手はありません。この打ち手こそ、コントロール不可能な金利変動リスクを伴うローンに対する唯一無比の備えとなるのです。

また、繰り上げ返済においては2つの方法がありますが、「返済期間短縮型」が一般的に利息軽減効果は高いと知られているのは全くの誤りであり、実は同じ条件で比較すればその効果は「返済額軽減型」も全く同じとなります。
一般的な「返済期間短縮型」の繰り上げ返済とは、借入金の一部返済に充てる繰り上げ返済資金(繰入金)の全てを活用して完済年を前倒しにする効果があります。退職後にも返済が残る不安が軽減される効果は大きいでしょう。しかし、この方法で繰り上げ返済を実行しても目先の毎月の返済額が何ら変わるわけではありません
一方、「返済額軽減型」の繰り上げ返済とは、完済年を前倒しする効果はありませんが、繰入金の分だけ毎月の返済額を減らしていけます。変動金利型ローンで怖いのは、金利上昇により当面の毎月の返済額が高くなり、これが家計を圧迫することですが、長期に渡って繰り上げ返済を続けていくことにより、その元となる毎月の返済額を予め低減させることができるというわけです。
さらに、毎月増え続けていく浮いた金額を家計の他の出費に充てるのではなく、更なる繰り上げ返済資金として充当していけば、繰入金自体を毎月増やしていくことになります。つまり、「返済期間短縮型」と同様に繰入金の全てを活用する一工夫を加えれば、2つの方法は全く同じ効果になるという仕組みです。

具体的に本田様のケースでご説明しましょう。現在の毎月の返済額は10万3,763円ですが、仮に繰入金を含めた毎月の負担を来年1月より15万円に設定しますと、差し引き開始月の繰入金は4万6,237円となります。その後も金利の変動は無いとして、満2年後には、毎月の負担は同じ15万円でも、返済月額は約10万円まで軽減、一方で繰入金は約5万円に増加しています。

金利がいくら上がろうと、毎月の返済額はその時の借入元金に応じて計算されます。「返済期間短縮型」も「返済額軽減型」も、繰り上げ返済により借入元金を目減りさせる効果は同じですが、こと、変動金利型ローンとの相性が良いのがどちらの方法であるのかは一目瞭然ですね。

ご参考までに、先ほどの【試算(3)】の金利高騰のケースでこの対策を実行した場合、計算上の返済月額は最大でも約18.6万円に抑えられるほか、繰り上げ返済に充てた合計金額は約168万円となる一方、これに対する利息軽減額は約689万円にも上ることになります。しかし、それでも将来的な貯蓄残高には不安を残しますので、現在よりも約1割程度の収支改善を行うとともに、退職時にはさらにある程度の金額で繰り上げ返済を実行する必要がありそうです。家計改善に伴う痛みの度合いは随分と和らぎますが、日常生活費等に削減余地がないか、今一度検討してみてください。

 

最後に

変動金利型ローンは、確かに返済当初の低金利が魅力的ですが、その恩恵をいつまで享受できるのかは予測できません。そして、結果的にその選択が良かったのかどうかも返済期間を全うするまでわかりません。
しかし、金利が上がらないことを祈るだけで何もしないのではなく、今のうちに打ち手を講じておくことが肝要です。それによって金利動向に逐次ストレスを覚えなくて済むことにもつながるでしょう。

 

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